アトピー性皮膚炎の治療に対する考え方が変わってきています。保湿剤やスキンケアーやアトピービジネスにみられる民間療法では、改善が本当にみられるか疑問でした。明らかに改善するのはステロイドの外用剤という現状でした。しかし、ここにきて治療法の進歩にはめざましいものがあります。それは新しい非ステロイドの軟こうや注射薬の登場です。
6ヵ月までの湿疹の完璧な治療。アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの関係の逆転。食物アレルギーがアトピー性皮膚炎を起こすという考えで、食物制限でアトピー性皮膚炎をなおすという治療が数十年続いていたのですが、最近では皮膚炎による痒みで皮膚に傷ができ、そこから食物抗原が侵入し食物アレルギーが成立するので、まず皮膚を痒みのない正常な状態にすることに重点がおかれるようになっています。特に保湿剤でのコントロールが良くない場合には積極的にステロイド軟こうをしっかり使用することが大切になってきています。ランセットという有名な文献の2020年版にアトピーのリスクのある小児に保湿剤を使用すると最近汚染のリスクを1.5倍に増やし、アトピー性皮膚炎を進行させるとの報告もあります。乳幼児期の湿疹に対し、中等度のステロイドから開始し良くなったら、弱いステロイドに、さらに良くなったら保湿剤のみへの治療に変え、悪くなったら再びステロイドへもどし、かゆみのない、健康な肌を保つことで6ヵ月以後の管理が劇的に楽になることを経験します。
今後数年以内に次々と非ステロイドの軟膏が発売されます。いままでは唯一の薬剤としてプロトピックだけが認められていましたが、アトピーのステロイド治療が不十分な場合塗布することにより、ヒリヒリ感や痒みが出現し、今一つ使用しずらい側面がありました。
しかしJAK阻害薬という痒みを生じるサイトカインを抑制する軟こうが発売され、発赤などの急性期の皮膚炎を治めたのちに使用すると著効することが判ってきました。ステロイドとこの薬剤を適切に使用することにより、中等度のアトピー性皮膚炎は完全にコントロールできるようになってきました。またJAK阻害薬以外にも発売前ですが当院で治験おこなった、PDE4阻害剤には皮膚の炎症をおさえる作用が強く、非ステロイドでありながら中等度の強さのステロイドより優れた作用が認められています。重症のアトピー性皮膚炎にはステロイド軟こうを併用し、中等度、軽症ではこの軟こう単独での使用でコントロール可能になると思われます。
基本的にはステロイド軟こうの強、中、弱の軟膏を部位、症状の程度に応じて使用し、プロアクティブ療法の考え方で完全にコントロールするのが原則ですが、その後の維持に関してかなり選択肢がふえてきています。
Th2細胞が産生するサイトカインは正常表皮分化過程を障害し,表皮最終分化タンパク質の発現を阻害することから,アトピー性皮府炎では皮膚バリア欠損を引き起こしたり,増大させたりすると考えられており、この働きを抑制する注射薬としてデュピクセントという注射薬が利用できるようになりました。強力なステロイドを長期に使用していたり、それでもコントロールが不十分な場合にアトピー性皮膚炎の重症度をEASIスコアーで判定し、使用します。
頭頚部、体幹、上肢、下肢別にアトピーの重症度、面積を数値化し、その合計で軟こう等の効果を判定するものです。これは世界で認められている、アトピー性皮膚炎の重症度を数値化したもので、当院でも積極的に使用して、適切な軟こう選択の指標としています。
次の成分が入った保湿剤には注意が必要とされています。
(国立成育医療研究センター 大矢 アレルギーセンター長:新生児・乳幼児のスキンケアーより引用)
・2歳未満の乳児で刺激が大きいもの プロピレングリコール
・接触皮膚炎を起こしやすいもの ラノリン、ウールワックスアルコール、メチルイソチアゾリノン
ちなみにヒルドイド(ヘパリン類似物質)のうちクリーム、ローションにはラノリンが含まれますが、軟こうには含まれないことをご周知ください。
以上、アトピー性皮膚炎の治療には画一的な方法はないのですが、年齢、重症度に応じて必要十分な治療ができる知識、薬剤の進歩がみられ、それに基づいた治療をおすすめします。