ウイルス肝炎は原因ウイルスによりA~E型に分類され、経口感染するA型・E型と血液や体液によって感染するB型・D型・C型に大別されます。日本ではウイルス性急性肝炎の約8割をA型とB型が占め、両疾患ともワクチンで予防できる疾患です。日本では年間の患者報告数は100~200例程度と少ないのですが、散発的な小流行はみられます。世界的には年間約2億人がA型肝炎を発症し、3万人以上が死亡しアジア・アフリカ・南米に高流行地域が多いとされています。現在の日本では,輸入感染と重症化のハイリスク群である高齢患者の増加が注目されています。わが国のA型肝炎患者の20~30%が海外での感染例で、その80%近くがアジアでの感染と報告されています。
実際の接種
日本で使用可能なHAワクチン、エイムゲンは 0.5mLずつを2~4週間隔で2 回、筋肉内または皮下に接種します。 さらに、初回接種後24週を経過した後に0.5mLを追加接種します。 従来は主に成人に接種されてきましたが、2013年3月に16歳未満の小児へも適応拡大され、1歳以上の小児への接種が推奨されるようになりました。小児への1回接種量も成人と同様、0.5mLです。
米国では12~24ヵ月の全小児にHAワクチン接種が行われています。日本では感染者が少ないので、ハイリスク群への接種が実際的であるとされています。WHOによると,ワクチン接種対象者はA型肝炎流行地への渡航者、血液製剤治療を生涯にわたり必要とする患者(血友病など)、男性同性愛者、麻薬使用者、慢性肝疾患患者とされています。このほか、食品を扱う業者や医療従事者にも接種が勧奨されています。
アジアなどHA浸淫国への旅行者は、特にワクチン接種が重要です。出国の4週間前までに3回のワクチン接種を済ませておくのが理想ですが、2回接種だけでも2年程度は感染防御レベル以上の抗体価を維持できます。潜伏期間を考えれば、出発直前の1回接種だけでも意義はあるとされています。定期・任意の予防接種の種類が多い小児にとっても、年齢制限がなくなったことと、 同時接種が可能になったことで、接種しやすいワクチンの1つとなっています。HAは発症前に感染力が強く、小児などでは不顕性感染も多いため,曝露後の感染予防が重要です。密接な接触があり感染リスクがきわめて高い場合は、免疫グロプリン製剤と一緒にワクチンを緊急接種します。
田川学、須磨﨑亮:A型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチン 日本医師会雑誌 2013 11月より引用